elderlyママのぼやき

元銀座のママです。長年続けてきたナイトクラブを令和2年3月27日に閉店しました。以降、農作業に励みながら銀座の思い出と日常をつづっています。

『ママたちの副業』

f:id:ElderlyMom:20200130160457j:plain 律子ママは妹分ですが、なかなかのやり手で当店の倍ほどの高級クラブを経営しています。

 去年の2月、副業で寿司やを始めたのですが、一年を待たずしてもう閉めるそうです。

『残念会』をやるから必ず来てと招集をかけられました。

 店が終わってから、白木の匂いがまだ鼻をつくこじんまりとした寿司店に入ると他の仲間連中はまだのようで、律子ママは一人で飲み始めていました。

 冷蔵庫に目をやり、

「何でも好きなもの食べて、好きなだけ飲んでよ。どうせ今月いっぱいでおしまいなんだから」

 やけ酒なのか、手酌でぐいぐいあおっています。

「ママにも悪いことしたわね、お客さん連れて来てくれたのに…」

 殊勝に謝られましたが、すぐさま表情を変えると、

「恨むんなら、板長を恨んでよね。あいつのせいで店閉めるんだから」

 と、カウンターに入っていた板前の悪口を言い始めました。

「別に恨んでなんかないわよ」
 私の言葉には聞く耳持たずで、

「…面接の時に、前いた店の客全部引き連れて来るって豪語したくせに、来たのは親戚のおじさんたった一人よ。それもただで飲み食いさせて…愛想は悪いし、機転はきかないし、仕入れは見栄張って経費かけるし…何が赤坂の名店で修行しましたよ! 笑わせるわ!」

 どれだけたまっていたのか、愚痴が止まりません。

 何事につけ、責任転嫁するのはこのママの悪い癖ですが、でも確かにあの板前はいただけませんでした。

 開店してまもなく、投資家のお客様を伴って顔を出したのですが、あの時の一件は思い返しても呆れます。

 カウンターに座って投資家はまず、「貝を切ってくれ」
 と頼んだのですが、出された寿司下駄には、

 赤貝、トリ貝、青柳、ほっき貝、みる貝が、余すところなく並べられていました。

 私はヒカリものを頼んだのですが、

 アジ、こはだ、サバ、イワシサヨリがびっしりでした。

 まるで貝とヒカリもののオンパレードで、これでは他のものが食べられません。

 こんな寿司やは初めてです。

 追い討ちをかけるように、
「房州産の片想い(アワビ)もありますが…」
 だの、
「アジはアオイソ(しその葉)を挟んだ方が良かったですか」

 だの寿司用語を連発して逆撫でします。
 
 こんな職人、律子ママはどこから見つけて来たの?

 ほとんど箸をつけないまま店を出たのですが、料金が高かったせいもあって投資家は表に出てもずうっと憤慨していました。

路面店ならともかく、ビルの六階であんなやり方してたら潰れるのは時間の問題だ!」
 と。
 
 あの日を回想しつつ、酔いが回っている律子ママに、

「…そんなにダメだったら板前を代えれば良かったじゃない? どうして取りかえなかったの?」
 と問うと、
 それには、

「もちろん、そうしようと思ったわよ。でもね、取りかえたところで当たりが来るとも限らないじゃない? そう思ったら面倒くさくなっちゃってさ。それに正直な話、お客さんもあまり来てくれなかったし…」 

「…でも、何で寿司やだったの? クラブを拡げたいとか言ってなかった?」

「若い子を使うのがイヤになったのよ。売り上げも上げられないくせに文句ばっか言ってさ…だから、ここの寿司やを軌道に乗せたら私は女将をやって、クラブは店長に任せようと思ったの」

 彼女と同じように、ホステスを使うのがイヤになって副業に走るママは少なくありませんが大抵は失敗しているようです。

 余談ですが、この律子ママ、若い頃は相当にワルなホステスでした。

「やってもやらなくても時給は変わらないし…」
 
 は、口癖だったし、同伴は八時半までと決められているのに、

「客連れて来て儲けさせてやってんだから何時に入ろうが勝手じゃないのよ!」
 
 などと悪態をついて、十時過ぎに堂々と出勤していました。

 彼女をもて余した店長は、
「頼むからあいつをしつけてくれよ」
 私に頭を下げていたものです。

 ブーメランと言ったでしょうか?

 やったことは返って来るんですね。