elderlyママのぼやき

銀座の高齢なママです。夜な夜な話を書いています。

宮本さんをご紹介します。

 お客様の宮本さんは50才ちょうどで、保険会社に勤めています。

 中学1年と高校2年の息子さんを持つシングルファザーで、7年前に奥さまを亡くされて来、お一人で育てています。

 モテ男の宮本さんが再婚せずに独り身を通して来たのには理由があります。

 奥さまのご葬儀の席で、義理のおかあさまに、

「孫たちを引き取らせてちょうだい。主人と私で育てますから」

 と請われ、断ると、

「だって、どうせあなたはすぐに再婚なさるんでしょう?」

 冷ややかに言われたそうなのです。

 まるで、それまでのだらしなかった女遊びを見透かされているようで身がすくんだと宮本さんは教えてくれました。

 意地でも一人で育て上げると決意した彼は、それまで勤めていた外資系の証券会社を辞めて、ノルマや残業の少ない小規模の保険会社に移りました。

 奥さまが亡くなられた時、下の弟君は小学校に上がったばかりの7才で、上のお兄ちゃんは11才でした。

 まだまだおかあさんが必要だった彼らを男手ひとつで育てて来たわけですが、子育てには成功されたようです。

 自分たちでやれることはお父さんに負担をかけないよう、役割分担を決めてやるそうですし、誕生日に図書カードをプレゼントした時は、宮本さん経由で手書きの礼状をもらいました。

 逆らったり反抗することもないようで、

「俺に気を使っているんだよ」

 宮本さんは不憫がっていました。

 昨年、奥さまの七回忌で、

「孫たちをちゃんと育ててくれてありがとう」
 
 と、義理のおかあさまに涙ぐまれたそうです。

 証券会社にお勤めの頃は、
「交際費は際限なく使える」
 と豪語して、部下を引き連れてはしょっちゅう来店されていましたが、今は隔週の金曜日にお一人で見えます。

 来店されると大抵は、水割りの一杯も飲まないまま眠ってしまわれます。

 一週間のお疲れがどっと来るのでしょう。

 閉店間近になると女性たちに起こされます。

 終電に間に合わないとタクシー代が大変だからです。

 ようやく立ち上がった宮本さんに、

「はい、これ。電車に忘れないで下さいよ」

 店の花瓶から抜き取ってこしらえた小さなブーケを渡します。

 奥さまのお仏壇に飾る供花です。

「いつもありがとう」

 握手を求めるその手は荒れてがさがさです。

「明日の休みは洗濯とアイロンがけでつぶれるなぁ」

 それでも嬉しそうに、新橋方面に帰って行かれます。

 仕事でミスした部下の頭に水割りをかけたり、接待がうまく運ばなかったのを当店のせいにしたり、鼻持ちのならなかった宮本さんの姿は今やどこにもありません。

 下請けの企画を横取りして『社長賞』をもらったのも、闇討ちにあったせいで左手の小指がいびつに歪んでいるのも全部嘘のようです。

 子育てをしながら宮本さんもまた、二人の息子さんに育てられたのかもしれませんね。

 f:id:ElderlyMom:20200206111106j:plain宮本さんの紹介を終わります。