elderlyママのぼやき

銀座の高齢なママです。夜な夜な話を書いています。

因果応報

 親友の茜ママの長年の悩みは、一人娘の夏希ちゃんです。

 茜ママとは付き合いが長いので、夏希ちゃんとも何度か会っていますが、なかなかの娘です。

 28才ですが、一度も定職につくことなく、お金がなくなると母親にせびりに来るという生活を繰り返しています。

 店に無心に来た時、鉢合わせしたことがあるのですが、茜ママが、

「先週、渡したばかりでしょう!金の成る木があるわけじゃないのよ!」

 叱ると、カウンターに客がいたにも関わらず、

「うるせえよ! 一生言ってろよ!」
 
 ものすごい目で母親をにらみつけながらドアを蹴って出て行きました。

 中学生の時、女の先生に暴行を働いて鑑別所に収監されたこともあり、

「どうすればあんなになるんだろう?」
「前世の敵に違いないわ」

 茜ママは嘆き、頭を抱えていました。
 しかしながらすべての要因が自分にあることはちゃんとわかっています。

 シングルマザーで産んだ夏希ちゃんを山梨のご両親に預けっ放しで育てなかったからです。

 長年にわたる飲酒のせいで、茜ママの心臓の筋肉は弱っています。

 去年、検査入院することになって夏希ちゃんに同意書のサインを頼んだら、

「てめえの生き死にに関係したくねえよ!」
 と突っぱねられたそうです。

 さすがにショックだったようで、茜ママは泣いていました。

「私、あの子に復讐されているのよね?」
 同意を求められても何も言えませんでした。 

 時間を巻き戻せるならママは、夏希ちゃんを絶対手放さないと言い切ります。

 夜寝る前は必ず絵本を読んであげる。
 好きなごはんを作ってあげる。
 絶対に叱らない。
 ぎゅっと抱き締めてあげる。

 できなかったことの全部全部をしてあげたいと悔いているのです。

 銀座には茜ママのようなホステスが少なくありません。

 先週のことです。
 開店準備のさなかに茜ママが明るい顔で入って来たと思いきや、

「この店で夏希を預かってくれない?」
 とんでもないことを言い出しました。

「あの子がね、銀座で働いてみたいって言うのよ。店探してくれって」
「……」
「あの子がお金以外で私に頼みごとするなんて初めてなのよ。叶えてあげたいじゃない?」

 茜ママはものすごく嬉しそうです。

「来週からでも来月からでも構わないからさ。給料はいくらでもいいからね。足りない分は私が補填するから」

 入店を勝手に決めて仕切っています。

 茜ママには高級なウイスキーを何本ももらっているし、泥染めの金額の張る大島紬ももらったりしています。

 カラオケがやりたいお客さんがいると紹介してくれるし、世話になりっぱなしです。

 失ったものを取り戻そうとしている気持ちは痛いほどわかるし、気分良く引き受けてあげたいのですが不安が先立ちます。

 夏希ちゃんは左の足首に卍のタトウを入れているし、右手の甲にもカラフルな蝶が舞っています。

 言葉づかいの悪さも気になるし、170センチを越える長身に母親ゆずりのややきつい顔立ちも迫力がありすぎて、穏やかなご年配客が多い当店にマッチするかどうかとても心配です。

 茜ママはまた日頃から、
「あんたの店の子たちはポアンとして、いつも温泉に浸かってるみたいね」
 ほめてるのか、けなしてるのか、そうした彼女たちと夏希ちゃんは果たして溶け込めるのでしょうか?

 茜ママが当店で夏希ちゃんを更正させたいのは見え見えです。

「あんたの店しかないんだから本当に頼むわよ」
 繰り返しますが、f:id:ElderlyMom:20200218195145j:plain二つ返事はできません。

「ちょっと考えさせて」

 返事を保留していますが、どうすべきかマジ悩んでいます。