elderlyママのぼやき

元銀座のママです。長年続けてきたナイトクラブを令和2年3月27日に閉店しました。以降、農作業に励みながら銀座の思い出と日常をつづっています。

今年こそお供させて下さい。

 緊急事態宣言が解除されたので東京へ行ったら寄りたい店があります。

 当店があった通りの並びにある寿司屋さんです。

 前回銀座に行った際に様子を窺った時は他店と同じように『しばらく休業します』の張り紙が貼られていました。

 この寿司店の男社長は70才くらいですが、若い頃から老人ホームの慰問を続けています。

 ホーム内に屋台セットを作って入所者に寿司をふるまうのですが、一昨年、
 
「ママ、来月の『敬老の日』、老人ホームの慰問に付き合ってくれない? 去年行った時に今度は銀座のママを連れて来るからっておじいちゃんたちに約束しちゃったんだよ」

 と誘われました。

「いいけど、私なんかが行ってもいいものなの?」

「もちろんだよ。みんな銀座のママを見たことがないって言うし、施設長なんか大乗り気でさ」

 敬老の日は祭日で店も休みだし、いずれ自分も行くかもしれない施設なので見ておきたい気持ちもあって二つ返事でOKしました。

 ところが、直前になって、同じ敬老の日にOB会の予約が入りました。

 25名という大人数に、気持ちがぐらつきました。

 寿司屋の社長に相談すると、

「それはそっちを優先すべきだよ。俺たちは客あっての商売なんだから。気にしなくていいよ」

 本当のところはわかりませんが、理解を示してくれました。

 後ろめたさはあったものの、その言葉に甘えてOB会を優先させてしまいました。

 後日、慰問に同行した板前さんに、

「どうだった? 銀座のママが来なくて皆さんガッカリしてなかった?」
 と訊ねると、

「大丈夫でしたよ。社長の妹さんが着物を着て銀座のママのふりをして参加しましたから。でも、『銀座のママはそんなに厚化粧でデブなのか! 銀座のママもたいしたことないな』っておじいちゃんたちにヤジ飛ばされてましたよ(笑)」

「そう。良かった!」

 盛り上がっている光景が浮かんでほっとしました。

 ですが、直後に、

「でも社長が慰問が終わった後にママを慰労したいからって川魚のバーベキューを予約してたんですよ。釣りたてのにじますを食べさせてあげたいって。ママの好きな日本酒も用意して」

 板前さんが悪気なく口にした言葉が刺さってしまいました。 

 その後、路上で会っても社長は相変わらずにこやかで態度を変えることはありませんでしたが、私の方がダメでした。

 気まずさが消えずに、店に行かなくなってしまいました。

 歯がゆいのですが、私にはこうした気の弱さが昔からあるのです。

 閉店する日、店が終わってからあいさつに行ったのですが、『早じまいしました』の紙が貼られていて会えずじまいでした。

 時が経つに連れて膨らむ後悔というものがあるようで、あの時に破ってしまった約束が今も何かの折りに頭をもたげます。

 社長とはホステス時代からの長い付き合いで、同業者割引の安い料金にも関わらず行くたびおいしいお寿司を出してくれて、お客様も紹介してくれました。

 信用をなくしてしまったようで、去年は老人ホームに誘ってもらえませんでした。

 でも店をやめた今年なら行けます。

 こうしたご時世ですから、老人ホームのご事情もあると思いますが、行かれるのならお供したいです。

 今度お邪魔した時に社長にお願いするつもりです。