elderlyママのぼやき

元銀座のママです。長年続けてきたナイトクラブを令和2年4月3日に閉店しました。以降、地方に暮らしながら農作業と母親の介護に励んでいます。

ありがとう。

 私の母は『ありがとう』を言わない人です。


 昔からで、誰に対してもです。


 だから、

「何かしてもらったらありがとうは基本でしょう? お金がかかるわけじゃないんだからちゃんと言いなさいよ!」

 性格がきつめの実妹にはことあるごとに怒られていました。

 
 わが息子にも、

「おばあちゃんは将軍様みたいだね」
 
 とからかわれていました。

 
 ただ肩を持つわけではないのですが、ありがとうを言わないからと言って感謝の気持ちがないわけではないのです。


 例えば野菜とか魚介を頂戴した時は、

「新鮮ですね」

「おいしくいただきます」

 などの、母なりの置き換え言葉で謝意は示します。


 私に対しても、

「ごくろうさん」

「お金、使わせたわね」

 などのねぎらいの言葉は惜しみません。


 それでも普通に『ありがとう』を言って欲しくて母とは随分戦って来ました。


 母は、

「慣れてないから今さら簡単に口に出ない」

 と顔をしかめ、

「ありがとうを言わなくてもちゃんと生きて来れたんだから!」

 最後には開き直りました。

 
 そこまで言われたら娘の私としては口をつぐむしかありません。
 
 もう言わないことに決めてスルーして来ました。


 ですが、今の地に移住して、相変わらず『ありがとう』を口にしない母がまた気になり出しました。


 耳に入って来ないだけで本当は地元の人たちに、陰であれこれ言われているのではないだろうか?


「礼儀知らずね」

「お高くとまってるわね」

 とか何とか。


 考えすぎかもしれませんが、やっぱりこのままではダメと思いました。


 母も私もこの地ではよそ者です。

『ついのすみか』と決めているのに嫌われたり村八分にでもされたら暮らしていけません。


 考えて、勝負に出ました。


 並べた朝食の前で母に、

「今日から食べる前にありがとうを言って。言わなきゃ食べさせない」

 毅然と言いました。


 いきなり切り出された母は、何を言ってるの? といった表情で私を見ましたが、すぐに、あっさりと、

「ありがとう」と言いました。

 そして自家栽培のグリーンピースがたっぷり入った好物のスクランブルエッグを食べ始めました。

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 しばらくは拍子抜けして言葉が出ませんでした。


「じゃあ食べない!」

 とふてくされて、席を立つかもしれないと身構えていたからです。


 いつぶりに耳にした『ありがとう』なのか久しぶり過ぎて思い出せません。


 母も年を取ったんだなと当たり前ですが感慨深い気持ちになりました。


 矛盾してるけど、

「ありがとうなんていちいち言わなくたって気持ちが通じてればいいのよ!」

 と、いつものようにつっぱねて欲しかった気もします。


 湯気の上がった朝食を駆け引きに使ったのはちょっと卑怯だったかも。

 ゴメン。

 謝ります。